第一章 出逢い ~青い春~

三月八日(日)の朝に、天地は優子に電話をかけ、リーガロイヤルホテルのラウンジに、午後二時に来てほしいと言った。優子は、思いがけない電話をもらい驚いたが、自分から連絡するつもりだったので、「伺います」と、すぐ言った。

優子は、行く道中で菓子折を買い、お礼の寸志を入れたのし袋を菓子折に添え、菓子折の紙袋に入れて持った。お世話になったので、待たせては失礼だと思い、優子は一時半にはホテルに着いた。分厚い絨毯の上を歩いてフロントを通り過ぎ、ラウンジへ入ると、天地は先に来ていた。優子を見るなり、立ちあがって会釈し、テーブルに招いた。

「急にお呼びだてして、すみません」
「いいえ。私こそ、先生にお会いしたいと思っていたんです」

「まっ、かけましょう」と、天地が言い、二人は椅子に座った。ボーイが来て、優子の前に水の入ったコップを置き、天地にメニューを差し出した。

「僕はホットコーヒー。貴女は?」
「私も同じで」と、優子は答えた。ボーイがスッと去って行った。

パステルピンクのワンピース姿の優子が来て、ラウンジは一気に春めき、あたりの人は、皆ちらっと、優子を横目で見ていた。天地も胸がときめいた。

「あの」
二人は同時に口を開いた。

「ごめんなさい。先生からどうぞ」と言って、優子は目をふせた。

「いえ、貴女からどうぞ」と、天地は言った。少し間があって、優子が顔をあげた。

「先生。この度は大変お世話になって、本当にありがとうございました。これは、ほんの気持ちばかりなんですけど、どうかお受け取り下さい」と、優子は寸志と菓子折の入った紙袋を差し出した。

「いや。それは困ります。前にも言ったように、柚木からの頼まれ事で、あれは仕事じゃありませんから、頂くわけにはいきません。どうぞ、お納め下さい。本当にお気遣いなく」と、天地は、優子を制止した。

「そんな。とっても良くして頂いて。持って帰ったら、母に叱られます。ほんのお口汚しですから」と、優子は言った。

「礼なら柚木に言って下さい。とにかく、僕は何も受け取りませんから。せっかくのお品をすみません。お母様によろしくお伝え下さって、それは、お父様にお供え下さい」と、天地は言った。優子は仕方なく紙袋をひっこめ、椅子の横に置いた。

ボーイが来て、二人の前にコーヒーカップを置いて行った。