「奥宮さん。今日お越し頂いたのは、その事ではありません」と、天地は気持ちを落ち着けながら言った。

「何でしょう?」と言い、優子はけげんそうに、天地の顔を見た。

「奥宮さん。いや、優子さん。貴女の事が好きです。僕と付き合って下さい」と、天地はひと思いに言った。

思いもしなかった言葉を聞き、優子はびっくりした。何と答えたらいいのかわからなくて、しばらく黙ってしまった。優子は考えた。背が高く、精悍な顔だちの天地は、知的で明るく、好感が持てた。こんな素敵な男性に、自分はつり合うのだろうか? 優子は自信がなかった。

「柚木先生から聞いていらっしゃるでしょ? 私、病気なんです。父はあんな亡くなり方をしました。その娘です。……私なんかで、いいんですか?」

優子は、ゆっくりと、自分でも確かめながら言った。

「貴女だからいいんです。貴女しか考えられない。優子さん。貴女に逢って、僕は初めて女性に安らぎを感じたんです。こんな気持ちは初めてです。僕と付き合って下さい」

天地は、優子をジッと見つめて、熱烈に言った。純粋な優子は、その熱い想いを素直に感じとった。天地の真っすぐな気持ちが心に響いた。

「……私でよければ」と、優子はささやくように言った。

「付き合って頂けるんですね!?」と、天地は聞いた。

「えぇ」と、優子は小さな声で答えた。

「ありがとう! あぁ、良かった」と言い、天地は笑顔を見せた。

その時、ほんの一瞬、優子の頭の中に柚木の顔が浮かんで、何かひっかかりそうになったが、それは泡のように瞬間で消え、天地の笑顔を見て、優子も微笑んだ。

「今日このあと、何かご予定はありますか?」と、天地が聞いた。

「いいえ」と、優子は答えた。

「年末から話題になっている映画『タイタニック』は、もうご覧になりましたか?」

「いいえ」

「この近くで、まだ上映している映画館があるんですが、一緒に観ませんか?」と、天地は誘った。

「えぇ」と、優子は微笑んだ。