「あの中川さんって、お知り合いなんですか?」
「ああ、沙織さんね。妻が生きていた頃からの常連客ですよ。もう10年以上のお付き合いです」
沙織さん。雅彦も名前で呼んでいる。
「仕事で疲れると、よくうちに来てくれていたんです。妻とも仲が良かった」
「そうなんですか」
それ以上は聞けなかった。嫉妬していると思われたくなかった。
(嫉妬なんてみっともない。でも、胸がざわつく。なんでざわつくの)
48歳の女が、42歳の美しい女性に嫉妬するなんて、みっともない。
でも、翌日も沙織は雅彦の傍にいた。
朝食の後、ロビーで新聞を読む雅彦の隣に座って話をしている。昼には2人で旅館の庭を散歩していた。沙織が雅彦の腕に手を添える場面を、よし子は2階の窓から見てしまった。
(見なければよかった。でも、見てしまった)
息が苦しくなった。
「気のせいよ」と自分に言い聞かせた。沙織は常連客で、雅彦の古い知り合い。親しげなのは当たり前だ。
でも、もう一つ気になることがあった。沙織がよし子を見る目だ。にこやかに挨拶をしてくれるが、その微笑みの裏に何かがある。品定めされているような、あるいは――値踏みされているような視線。
「奥様になられたんですね。おめでとうございます」
ある日、廊下ですれ違った時に沙織がそう言った。
「ありがとうございます」
「雅彦さんとはもう長いお付き合いなので、新しい奥様がどんな方か気になっていたんです」
微笑んでいる。でも目が笑っていない。よし子はそう感じた。考えすぎだろうか。
(考えすぎかな。でも、この微笑みが怖い)