【前回記事を読む】彼氏できたと言うと、娘が号泣。「お父さんのこと、もう忘れたの!? なんで知らない男と?」ブツっと切られ、既読もつかないまま…
家族の食卓
LINEの既読がついたのは、3日後だった。
返事は短かった。「会う。その人に会ってみる」
よし子は震える指で雅彦に伝えた。「いつでも」と雅彦は即答した。
翌週の日曜日、美咲が旅館にやって来た。1人でバスに乗って、2時間以上かけて。よし子がバス停まで迎えに行くと、美咲はリュックを背負って仏頂面で立っていた。
「遠かったでしょう。疲れなかった?」
「別に」
素っ気ない返事。でも、来てくれた。それだけでよし子は泣きそうだった。
(来てくれた。美咲が来てくれた)
食事の場所は旅館の離れにした。普段は使われていないあの部屋。雅彦が自ら腕を振るい、山菜の天ぷらと、旅館の名物である岩魚の塩焼き、それに手作りの茶碗蒸しを用意した。
「はじめまして。藤堂雅彦です」
雅彦が丁寧に頭を下げた。美咲は椅子に浅く座ったまま、値踏みするような目で雅彦を見ていた。よし子は胃が痛かった。
(美咲が雅彦さんを値踏みしている。でもこれは、当然のことだ)
「……どうぞ、召し上がってください」
雅彦が皿を並べる。美咲は黙って箸を取った。天ぷらを一口食べ、少し目を見開いた。
「……おいしい」
「ありがとう。うちの旅館の裏山で採れた山菜です。タラの芽が今年は出来がよくて」
美咲は返事をしなかった。黙々と食べている。よし子は味が分からなかった。沈黙の中、美咲が急に口を開いた。
「1つだけ聞いていいですか」
「何でも」
「お母さんのどこが好きなんですか」