よし子は箸を落としそうになった。美咲はまっすぐに雅彦を見ている。18歳の目は鋭い。嘘は見抜かれる。

(美咲……。核心を突くのが早すぎる)

雅彦は少し考えてから、静かに答えた。

「最初に会った日、お母さんの手を見たんです。火傷の痕がたくさんあった。18年間、娘さんのために働いてきた手だと思いました。僕にとっていちばん美しい手でした」

美咲の表情が揺れた。

「僕も妻を亡くしています。だから、お母さんの寂しさが分かるんです。分かるからこそ、もう1人にさせたくないと思った。美咲さんから大切なお母さんを奪うつもりはありません。ただ、一緒に支えさせてほしいんです」

よし子は俯いて唇を噛んだ。泣いてはだめだ。ここで泣いたら、美咲が余計に困る。

(泣くな。今泣いたらだめだ)

美咲はしばらく黙っていた。箸で岩魚の身をほぐしながら、何かを考えている様子だった。

「お父さんのこと、知ってるんですか」

「お母さんから聞きました。とても優しい方だったと」

「優しかったです。不器用だけど、いつも私たちのことを考えてくれてた」

美咲の声が震えた。目が赤くなっている。

「お父さんは……お母さんが他の人と一緒になるの、嫌がると思いますか」

美咲が問いかけたのは、雅彦ではなかった。よし子だった。

「——分からない。でもね、お父さんはいつも言ってたの。『よし子と美咲が笑ってるのがいちばん嬉しい』って」

正志の口癖だった。休みの日に3人でテレビを見て笑っている時。美咲の運動会でよし子と一緒にお弁当を食べている時。正志は決まってそう言った。