「栗原さんも、ご主人を亡くされたと伺いました」
「はい。3年前に」
「それは——お辛かったでしょう」
その言い方には、社交辞令ではない実感がこもっていた。同じ痛みを知る人の言葉だった。よし子は思わず目を伏せた。泣いてしまいそうだった。
(なんで泣きそうになっているの。初めて会った人なのに)
「あ、すみません。初日から暗い話をしてしまって」
藤堂さんが慌てて手を振った。
「こちらこそ。——さあ、お部屋にご案内しますね」
よし子に用意された部屋は、6畳の和室だった。窓を開けると山の匂いがした。小さな部屋だが、布団も箪笥も清潔で、花瓶には山野草が一輪挿してあった。
(山野草まで。気遣いのある人なんだ)
「河村さん、こちらが新しく来られた栗原さんです」
藤堂さんが呼んだのは、50代半ばの女性だった。きりっとした顔立ちに、白い割烹着。旅館の古株仲居だという河村節子は、よし子を頭のてっぺんからつま先まで見て、ふん、と鼻を鳴らした。
「仲居の経験は?」
「あ、ありません……」
「料理は?」
「家庭料理くらいなら」
「着付けは?」
「で、できません」
節子は眉をひそめた。
「旦那さん、この方で大丈夫なんですか。うちは人手不足ですけど、素人に一から教えてる余裕はないですよ」
(さっそく試練が来た)
よし子はできるだけ背筋を伸ばした。でも内心はすっかり縮み上がっていた。