それからどのくらいたっただろうか。治美から、「やっと自信のもてる作品が作れたから」とパッチワークの作品展に来てほしいといわれた。
田園都市線のある駅から五分ほどのデパートの中でおこなわれた作品展に恵子は出かけた。久しぶりに会う治美は、相変わらず愛らしい目をしていたが、どこか雰囲気が変わっていた。しゃんとしている。入院中はもっと甘えたようなところがあった。
何かをなしている人間の心棒のようなものだろうか、と恵子は思った。治美の作品を見て、「すごい!」と恵子は叫んだ。畳二畳ほどの大きさで、ラズベリー系の色を基調としながら、アクセントに少しだけ、だいだい色や濃いピンクがあしらってあり、中心から外側に向かって、同心円の模様が広がっている。治美は嬉しそうだった。
「ねっ、すごいでしょ?」と聞く。
「うん、うん、すごい、すごい! 尊敬するよ!」、恵子は大絶賛した。これだけのものを作れるのなら、たしかにそれが生活の中心になってもおかしくないと思えた。治美は小声でいった。
「だけどね、もっと素敵な作品がいっぱいあるでしょう。私も、もっともっと上達して、ああいうのに負けない作品を作りたいと思ってるんだ」
「そうなのね。応援してるよ」、恵子は心底そう思った。これが、かつてアルコールとエステに溺れていた人が作るものだろうか、アル中から立ち直れば充実した人生を送ることが可能なのだ、と恵子は勇気をもらった。
それから何年もして、治美はパッチワーク教室の講師になった。愛美は大学生となった。仲のいい母娘である。年に一回のわりで開かれる作品展には、恵子は欠かさず駆けつけている。
ここ三、四年は、会場の近くでお茶をする二人にとって、断酒のことなど遠い昔の出来事で、千里浜が話題になることもなかった。
次回更新は3月25日(水)、21時の予定です。
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