大学三年生になった僕は、ビジネスを専門としたゼミを選択して、消費者の動向だとか、広告コミュニケーションを学んでいる。
去年の授業で、企業のブランディングに成功した手法や事例を聞いて、自分の企画で多くの人の心をつかめることができるという仕事に強く心を惹かれたのがきっかけだ。
僕は昔から人に喜んでもらったり、楽しんでもらったりするとすごく嬉しい気持ちになるから、そんな性格に合っているような気がした。
授業はどれも新しい学びがあるし、とても充実している。ただ、一コマ九十分の長い授業の連続に、友達に誘われて始めた居酒屋のアルバイト、サッカーサークルの練習に飲み会と、とにかくせわしない毎日だ。だからこそ、こういう安らぎを求めていたんだろう。
(今日もいい天気だな)
ぼーっと空を眺めているうちに、少しうとうとしてしまう。
(次の授業まであと二十分あるし、ちょっとだけ……)
「……くん」
かすかに声が聞こえる。
「──黒田くん!」
聞き慣れたその声にはっと目を覚ます。
「もう、またここにいた」
「雪野さん、あれ? 今何時?」
まだ明るいけれど、ずいぶん長いこと眠ってしまったような気がする。
「もう午後の授業一つ終わっちゃったよ。お昼からここにいたでしょ」
「──え?」
僕は二時間近くここで居眠りしていたらしい。雪野さんは少し呆れた様子だが、僕の隣に並んで座る。
「だいぶ暖かくなったもんね」
「雪野さん、サボりに来たの?」
「黒田くんと一緒にしないでよ、次は空きコマなの」
からかうような口調で笑われる。
「僕だって授業には出ようと思っていたんだよ、でも気づいたら……」
「ぐっすりだったもんね。まあ、今日くらいいいんじゃない? いつも忙しいのに無遅刻無欠席だったんでしょ」
「その記録も今日で終わっちゃったなー……」
雪野さんのいる文学部も同じ棟に入っていて、学部が違っても同じ授業を受けることもあったから、僕たちはなんだかんだ毎日一緒にいる。
次回更新は3月19日(木)、20時の予定です。
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