【前回の記事を読む】妊娠8ヵ月目を迎えたが、夫は午前0時過ぎに帰宅し、休日も接待。愛されてる実感がないなか、彼の元カノが現れ…

第八章 忍び寄る罠

俺は今日くらい早く沙優の元へ帰れば良かったが、なぜか瑠美を放っておくことが出来なかった。この時、文句一つ言わない沙優に甘えていた自分に気づくことが出来なかった。

誰にも聞かれたくないとの瑠美の申し出にホテルに行ってしまったのが、俺にとって大誤算だった。

「ちょっと飲まないと話せないからお酒付き合って」

俺は酒に強くないことを自分自身分かっていた。少しくらいならと口にしてしまったことが、俺の人生をも大きく変えることになるなど、この時は気づけなかった。

ホテルのバーで瑠美と酒を飲み、瑠美のあの頃と変わらない可愛らしさに俺は懐かしさを覚えた。

「相談ってなんだ」

「う〜ん」

瑠美は俯いて恥ずかしそうにしていた。まさかこの時、瑠美が俺とよりを戻そうと企んでいたことなど知る由もなかった。

「あのね、今付き合っている彼が暴力を振るうの」

「DV野郎か」

「うん、貢といると安心する」

そう言って、瑠美は俺に抱きついてきた。

捨てられた子犬のように震えている瑠美を、俺は引き離すことは出来なかった。しかし、瑠美を抱きしめてはいない。この時の俺ははっきり言って、瑠美への気持ちはもう終わっていたと断言出来る。だが、バーで飲んだ酒の酔いが回って、その後のことは覚えていない。気づくと、ベッドで瑠美を抱きしめていた。

「貢、おはよう、久しぶりでやっぱり貢を愛していると気づいたよ」

どういうことだ。俺は瑠美を抱いたのか。頭がガンガンする。何にも覚えていない、なんたる失態だ。

「瑠美、ごめん、俺、帰るな」

「貢、私、彼と別れるから、一緒にいて」

「瑠美」

瑠美は俺に抱きついてきた。俺は瑠美と見つめ合った。唇が数センチと近づいた時、俺の脳裏を沙優の泣いている顔が掠めた。