「雪野さんのせいじゃない」
もう一度、今度は落ち着いた声で、しっかりと彼女に伝わるように言った。
「黒田くん……」
「すごく怖かったよね」
「…………うん」
電話の向こうにいる彼女は泣いている。彼女を励ましたかったのに、つらいことを思い出させてしまって、こうやって泣かせてしまって、僕は本当に不甲斐ない。伝えたいことの十分の一も伝えられていない。
「……私、何もなくて。お母さんがいなくなって、お父さんがいなくなっちゃって、家も何もかも……なくなっちゃって」
「…………うん」
「病院で、目の前にお父さんはいるのにもう喋ってくれなくて……怖くて」
「……うん」
「一人取り残されて、寂しくて」
「……うん」
ぽつり、ぽつり、とつぶやくような彼女の言葉を受け取る。
「でもね、おじいちゃんとおばあちゃんが来てくれて、私のことを抱きしめて雫だけでも生きていてくれてよかったって言ってくれたの」
「うん」
「それで……私のことを心配してくれる人がまだいるんだって思って……すっごく嬉しかったの」
「……おじいちゃんとおばあちゃんだけじゃないよ」
「え?」
これだけは、絶対に伝えたかった。
「隼人も、悠人も、拓也も、それだけじゃない。先生も、クラスのみんなも、雪野さんのことをすごく心配していたよ。……それに」
受話器をぎゅっと握りしめる。
「……僕だって」
「…………」
しばらく沈黙が続く。その沈黙が続くにつれ、顔が熱くなっていくのがわかる。電話でよかった。もし彼女を前にして言っていたら、真っ赤になった顔を見られてしまっただろう。でも、その緊張はきっと電話越しでも彼女に伝わってしまったのだろう。
「あ……えっと……」
彼女も少し口ごもってしまう。
「……雪野さんは一人じゃないから、だから、その……学校で待ってる」
「……うん、ありがとう」
恥ずかしくなって、少し早口で「じゃあね」と言って電話を切った。少しでも、ほんの少しだけでも彼女を励ますことができただろうか。また学校で彼女の笑顔を見られたら、そんなことを考えながら、その日僕は眠りについた。
次回更新は3月12日(木)、20時の予定です。