【前回記事を読む】目指すは遥かなるルーシーの中心都市、"キーウ"。1人の若者がバイキング船の漕ぎ手として未知の航海に出た――。
【10日目/曇】
船団はサクソニアの沿岸を座礁しないように慎重に進んだ。
満潮になると大半が潮につかるこの土地の民は貧しい。穏やかな航海の後に翌朝、我々はフランクの港に入った。
マストの先に白い布を取り付けて敵対するつもりはないという意志を示す。船が桟橋に着くと港の役人が武装した兵士とともにやってきた。船長と通訳が船を降り、この地で商売をしたいことを伝える。
船長は長剣一振りだけを腰にさし鎖帷子は着けていない軽武装だ。我々は固唾をのんで交渉の行方を見守った。私の足元には弓と斧が瞬時に使えるように置いてある。交渉は上手くいったようだ。役人は機嫌良く引き上げていった。その手にはテンの毛皮が握られていた。
暫くするとフランクの商人の一団がやってきたので、我々は積み荷を港に近い広場に運んだ。今夜は久しぶりに陸上で過ごすことができるかと期待が高まる。
その夜、我々の船団はこの港から少し離れた入江の浜に停泊した。入り江の周りは断崖になっているので、外からの急な襲撃を受けることはないだろう。
日が沈んだ頃、船に少数の見張りを残して皆が浜に上がった。久しぶりに陸での宴を楽しむ。焚火を囲み、肉を焼き、酒を飲み、歌い踊った。
今夜は夏の始まりを祝うスーマルマールの祭りの日だった。
娘たちも、肉を食べ、それぞれ故郷の歌を歌い、そして踊っている。私は火の向こうにいる娘たちの歌声に耳を傾け、見たことのない踊りを眺めていた。
その踊りの輪にあの娘を認めた。私はいつの間にか立ち上がり娘たちの輪に近づいていた。しかし、心臓の鼓動が大きくなるに従い、そこから一歩も前に進めなくなっていた。
信じられないことに、ぎこちなく立っている私にあの娘が目の前まで近づいてきた。