【前回の記事を読む】初恋の相手・野口さんの家にお泊り。父親に無理矢理犯された恵理は、彼に抱かれればそれを忘れられると考え...
第一章 壊れた家族
恵理は、12時になったら、玄関に鍵をかけて野口宅を出発した。「おきがしま丸」は、予定より少し遅れて出航した。八丈島の底土港に着くと、底土港から東京竹芝桟橋行きの大型客船に乗った。この日の22時30分に出て、最短で11時間で到着するので、翌日の9時30分前後に到着する。「あけぼの丸」という、とてもきれいで清潔な船だ。
運賃は2等席8200円。飛行機なら八丈島空港から羽田空港までは一番安い便でもその日は1万2070円だから、安い船を選んだ。智子からへそくり20万円をもらっているが、先行き不安ばかりなので節約だ。
一番安い2等和室はカーペット敷きで1部屋10人ぐらい。一人ひとりのスペースは床のラインで区切られていて、枕元には仕切りがある。そのため寝返りを打っても見知らぬ乗客の寝顔が見える訳ではないのでこれはとっても快適だ。従来の雑魚寝とは違うのだ。頭上には100円リターン式のロッカーもある。
部屋は女性専用と男女相部屋があるので恵理は女性専用の部屋を選んだ。この便には団体さんがいたのでそれなりに最初は賑やかだったが、行きは夜船なので消灯時間を過ぎれば静かになった。
そして、翌日になった。いよい恩師から「大志を抱け」と言われた東京上陸の日である。朝は、三宅島に着岸する少し前からアナウンスがあり、恵理が目を覚ました部屋の照明が点いて船内がざわざわし始めた。
三宅島に着岸すると恵理は船のデッキに出て外を見た。出航すると次は大島だ。この間、太平洋はべた凪で、鏡のように静かだ。
まるで、恵理を迎えてくれているように見えた。感動した。
すると、恵理は、自然と卒業式に歌った歌を口ずさんでいた。曲名は川嶋あい作詞・作曲・歌の『旅立ちの日に』だ。別れの寂しさだけではなく、これから始まる新たな日々に希望を託す歌詞が印象的な曲だった。この曲は、卒業ソング1位に輝いたことがある。2006年に発売された曲だ。2006年というと恵理が生まれた年だ。
卒業式の時は、ただ歌わされた感があったが、歌ってみると、何と、今の自分にピッタリなことか。まだ上陸前の東京での新しい生活に向かって応援ソングにもなった。ちなみに、卒業式で歌う歌にこの曲を推薦したのは野口だった。