「そちらは?」

耕太郎が男性に声をかけると、淑子は慌てて紹介しました。

「ブラバンの先輩で同じファゴット奏者なの。東京の大学の翔さんよ」

翔が口を開こうとしましたが、先に耕太郎が話し出していました。

「淑子さん、花嫁列車が出発しちゃった」

淑子は驚きました。

「誰も迎えにこなかったわ」

「おいらの豪華送迎車で花嫁列車を追いかけるぞ、どっちが早く着くか競争だ」

淑子は落胆の色を隠せませんでした。

「私を置いて花嫁列車は出発したのね。やっぱり、団圃さんとのご縁はなかったのかも」

淑子が再び翔の手を握りました。

淑子は接吻の魔術に掛かっているようです。翔は淑子の手を握り返して強くうなずきました。それを見た耕太郎は慌てて淑子に言いました。

「ちまたじゃあ、玉の輿って言われてるよ。うらやましいな~」

「ほんとに、私って玉の輿なの。いやだわ。夫婦何もないところから苦労して財を築き、たくさんの子供に囲まれ毎日汗かき楽しく暮らすの。最初から財産があったら面白くないわ」

「だけどさ、ないよりはあった方が人生どれだけ楽かわかんないよ」

「まあ、それもそうね」

淑子は現実に引き戻され、心の中で耕太郎に感謝しました。

「今から結婚相手を変更なんて無理よ。連絡もない翔が悪いんだわ」

翔は美しい淑子の横顔に、別な淑子を見る思いでした。

 

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