「私をダッチカントリーフェアに連れて行って!」

ナタリーからそう誘われたのは、10月初めの爽やかな風が吹き抜ける日の朝のこと

だった。私は取材のことも忘れ、二つ返事でナタリーとの初めてのデートを受け入れ、心を躍らせたものだ。この日、私は初めてハドソン川を渡ったのだが、ナタリーにとってもそれは初めての経験のようだった。

「まるで海みたい!」

「君はまだ本当の海を見たことがないんだね」

「ないわ。マンハッタンにだって行ったことがない。タカオ、いつか連れて行ってくれる?」

「いいとも!」

私は、ウェストキャンプには、ナタリーのように目と鼻の先である(と言っても100マイルほど離れているのだが)マンハッタンにすら一度も行くことなく、一生を終える人々の方が圧倒的に多いのだろうと思った。

ウォーターモアという小さな町にダッチカントリーフェアの会場はあったのだが、あたりにはローストビーフや、鳥のもも肉を焼く香ばしい香りが目に染みるほどの煙とともに充満し、射的や見世物小屋が並ぶ光景は、まるで日本の縁日と見紛うばかりであった。

ナタリーはまるで幼い少女のように好奇の目を輝かせ、この地にあっては信じられないほどの人ごみのなかを、私の腕を引っ張りながら、あちこちに案内するのであった。私がそろそろ帰ろうかと促しても、

「もうすぐ、消防団のパレードがあるの。それに向こうでは牛や豚の品評会もやっているのよ。帰るのはそれを見てからでもいい?」と取り付く島もない。結局、私は彼女に言われるがまま、夕方近くまでをこの田舎のフェスティバル会場で過ごすことになったのであるが……。

私はこの頃からひそかに彼女にレンズを向けるようになっていた。それは決して写されることを意識していない素顔のナタリーが限りなく愛おしく思えたからだ。

そして、彼女の存在を一段と強く意識し始めたのも、この頃からではなかったか。帰りの車の中で熟睡する彼女の美しい横顔を見ながら、私はただならぬ運命のようなものを感じ取ったのであった。

 

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