リハビリとトレーニング
中村:ところで、高齢者の方でも筋肉の強化ってできるんでしょうか?
溝口:もちろんです。但し、ウサギはカメのようにゆっくり歩くことができても、カメはウサギのように速くは走れません。ですから、アスリートにはアスリートの、高齢者には高齢者の適切なトレーニングが必要なんですね。筋肉っていうのは細胞の束でできています。
その筋細胞の中に筋繊維という細かい束が並んでいて、さらにその中にフィラメントというタンパク質が並んでいます。そのフィラメントなんですが、アクチンとミオシンというものが双方の頭をつき合わせた形になっていて、筋収縮時には互いの隙間に入り込むようになっているんです。
筋肉を鍛えるということはフィラメントの数を増やしていくこと、それに尽きます。高齢者の方には、「激しい動き」や「過度な動き」を伴わない筋力トレーニング(アイソメトリクッス)をお勧めします。単なる壁押しでもいいんです。壁を両手で6~7秒押し続けたらリリース。それをインターバルを取って2~3セット。スクワット(ハーフもしくはクオーター)でしゃがんだ格好の状態で同じく6~7秒間維持など。
この6~7秒間というのには理由があります。フィラメントの働き(※1)や細胞外(細胞外基質)と細胞内(細胞内基質)との連係も知っておくべきことの一つですね。詳しく知る必要はありませんが、細胞外から機械的ストレスをかけるという意味ではトレーニングでも鍼治療でも同じです。
トレーニングによって負荷をかけ、細胞外から細胞内への機械的ストレスを与えます。そして、ある特定のチャネルが開き最初の化学反応が起きます。その反応を「タンパク質のリン酸化反応」と言います。そして、連続的なリン酸化反応(カスケード)、タンパク質の形態を変えながらまた細胞外へ出て、インテグリンという受容体を介してまた細胞内へ入っていく。それを繰り返します。