「紹介状」が開業医をダメにする

中村:確かにいざとなったら紹介状を出せばいいのですから、可もなく不可もなくという保身的な治療になってしまいますよね。紹介状を出した後の責任は紹介状を受け入れた側になるのですから、それまでの治療経過や責任は手元から離れますからね。

溝口:医者も感情と知恵を持った人間ですから。「保身治療」を選び、薬や注射、無駄な検査や定期的な検査・診察など利益になることから優先的にやるようになりますよね。だから、治るものまで治らないんです。手術しなくても良かったのに、手術する状態にまで悪くなっちゃったというケースも少なくありません。

対症療法や注射だけではなく、もっと早い段階で運動療法や細胞外(細胞外基質)からのアプローチを率先的にやっていくべきです。食事療法も含めてですね。残念なことに、医者が持っている科学的なトレーニング理論(運動療法)と分子栄養学(食事療法)の知識はかなり低いです。受け売りが主体です。血圧が高い患者にはお決まりの「塩分を控えてくださいね」「体重を落としてくださいね」です。

塩分をどれくらい控えればいいのか? 塩分の摂取量はどれくらいなのか? 体重を落とすにはどれくらいのペースでどのようなトレーニングをすればいいのかなど、具体的数値や方法を示して指導することなんかできません。

たとえば、ナトリウムとカリウムをおおよそ0.6:1の割合で摂り、どういった食品をどのように摂ればいいのか。カルシウムとマグネシウムをおおよそ2:1の割合で摂り、どういった食品をどのようにして摂取すればいいのか。ビタミンEは男性が6.5㎎、女性が6.0㎎の摂取が必要でどのような食品から摂ればいいのか?

など、そういった分子栄養学的な基礎知識すら持ち合わせていません。トレーニング理論(運動療法)にしてもほぼ受け売りです。

中村:お医者さんだからこそ、運動や食事についても知っておられるのかなぁって思っていましたが、そうじゃないんですね。

溝口:はい。“治らない三種の神器”で治療されてきた患者で、こういった正しいエクササイズや分子栄養学(食事療法)なんかを組み合わせて改善された方はたくさんいます。腰痛や膝痛だけではなく、軽度の高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病の患者も同じで、薬に頼らずエクササイズや食事療法で完治することが 非常に多いんです。

しかし、そういった患者に対しても対症療法(薬漬け)で済ませようとします。トレーニング理論(運動療法)と栄養学(食事療法)を知らない。これは医者全般に言えるウイークポイントですね。医学部のカリキュラムにも入っていないところが多いので勉強していないんです。

中村:スポーツトレーナーの方が医者よりも知ってるんですね?

溝口:いいえ。医者は基礎医学知識が豊富でもトレーニング理論(運動療法)は弱い。一方、スポーツトレーナーはトレーニング理論(運動療法)についてはある程度詳しいが基礎医学知識が乏しい。歯痒いところです。一番良いのは両方優れていることですが、なかなかそういった指導者はいません。