そう言えば彼氏がいるかどうかを私も聞いてなかったが、付き合っていた当初、元カレ元カノと会うか? の話をしたことがあり、その際、その時に付き合っている人がいるなら、絶対に会わないと返答していたことから、私と会うということは、彼氏はいないなと思い込んでいた。

その質問に対しサエは、私と目を合わせて「そんなねー、いい歳ですし」とはぐらかしているが、彼女の性格上いないなら、いないと、ハッキリ言う。

サエは話を逸らして「今お勧めのアーティストを紹介して欲しい」と訪ねてきた。

彼女自身も音楽は好きな方で、付き合っていた当時から、洋楽邦楽問わず、幅広いジャンルを聴いていたのを思い出す。

「今はブルーノ・マーズなんか好きそうだからオススメかな」

「星野源という日本人、これから大衆ウケするよ必ず」

なんて私は得意げに語っていた、実際どちらも今となってはビッグアーティストだ。

付き合っている彼氏がいるかと聞けぬまま、時間だけが過ぎていく。ヒデジが洗い物で厨房に隠れたのが目に入り、私はサエの左手を右手で握った。彼女は振り解くことはせずに、私の痩せ細った右手を握り返してきた。

「彼氏いるのに何で会ってくれたんだ?」

彼女は私の目を見て答えた。

「何でだろうね。迷ったんだけど。会いたいとは違って。会った方がいいって気持ちが強かったのかもね」

そう言うと立ち上がり、トイレに向かっていった。途中厨房にいるヒデジにス●ノフア●スを追加オーダーしているようだ。私はDJブースの前に立ち、店に置きっ放しのDJバッグの中から、プルーノ・マーズのCDを出し器材に読み込ませる。店内に『Just the Way You Are』が流れる。

彼女には、この名曲がどのように聴こえていたのだろうか、もちろん英語詞だ。何年か経ってこの曲の和訳を読んで欲しかったのかもしれない。 その日を最後にサエとは会っていない。最後に触れたのは隠し続けていた私の右手になった。

THCの大型テレビでは横浜のサヨナラ勝ちに、絶好調男、中畑清が満面の笑みでナインを迎え入れている。

次回更新は3月1日(日)、14時の予定です。

 

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