「シュウ。これはさすがに」

愛子はケースから指輪を抜き出さなかった。

「わがってる。やりすぎだと思ってんだっぺ? でも貰ってほしい。おれの気持ちが本物だってわがってほしい。一緒にいだがった! 愛子といつまでも時間を過ごしたがった!」

この20年、ずっと伝えたかったことだ。感情が溢れ出て言葉が震える。愛子にとっては普通の日常だから、奇異に感じるだろう。

「……かった? 何で過去形なの?」首を少しだけ傾げた愛子が、困ったように苦笑いする。

「それに、シュウは卒業したら東京に行ぐんだよ。できない約束しないで。変に期待もたせないで」

「行がねぇ! おれもう東京なんてどうでもいいんだ。ずっと愛子の側にいっがら。本当に愛子が大切だってわかったがら」

そう。工藤と愛子が生まれ育ったこの愛すべき町自体が、消える。

だから故郷はもうどうでもよかった。愛子と一緒なら。

「まさが、あれ?」

何かを思い出したかのように愛子が問いかけてくる。それまでの不安な表情が消え、何かを確信したかのように。

「あれ、覚えててくれたんだ。本物をくれるってことなんだね。わがった。今は受け取れないけど、預かっておく。シュウの思いが本物でこのさき悪いことしなければ、いつか受け取る。そして……私もお返しする。今の気持ちを書いてあの場所に置いておく。本当にその日が来るまで」

『あれ』『あの場所』?

工藤にはピンとこなかったが、愛子が指輪を受け取ってくれたことに、ひとまずほっとした。

次回更新は2月25日(水)、14時の予定です。

 

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