思考は迅速に動いている。残り少ない二人の時間をどう過ごし、何を伝えればいいのか。
「誘っておいて、無口だね」
愛子の疑いをかわしたくて、その場に仰向けになった。空はまだ晴れ渡っている。少し経てば灰色がこの空を支配し、地上へ死神を送り込む。
「来週の月曜、おれ、用事あって学校休むんだ」工藤の言葉に愛子が表情を曇らせた。
「あれだ。東京の親戚が病状悪くって。行くんだわ」
「東京に親戚なんかいだっけ?」
「いるの。そんで、わがっぺ? 月曜にわだせねぇがら、今わだしてぇんだ」そう言って工藤はポケットに手を入れた。
「やっぱり月曜、亜美と会うのげ?」
愛子の問いに工藤は肩透かしを食らった。こちらの真剣な思いは届かなかったらしい。
「違うよ。そもそも水谷からはチョコレートもらってねぇし」
「ほんとげ?」
嘘だった。水谷からも、先月の14日チョコをもらっていた。
「愛子からだけ!」
「だったら」愛子の癖だ。恋心をさらけ出すとき、下を向く。
「ホワイトデーのお返し、何も今日でなぐってもよぐない? 明日とかあさっての日曜とか」
彼女がそう考えるのはもっともだ。お返しと称し土日をつかってデートもできる。
だが。明日はない。あさってもない。この先、ホワイトデーも学校も恋も何もかも、吹き飛ばされてしまう。
「どうしても週末はシフトに入ってくれって、店長から言われてんだ」そのころ工藤は地元のスーパーでアルバイトをしていた。
「だがら、これ」
包装されたプレゼントを愛子に差し出す。彼女は驚いた心情を、大きくした瞳で表してみせた。
「なぁに?」
リボンを解き、愛子は包装紙のテープを丁寧にはがした。ワイン色の四角いケースが露わになる。
「うそ!」
嬉しさから微妙に外れた驚きを愛子は見せた。当然だろう。とても高校2年生が渡す代物ではない。