【前回の記事を読む】「着ているものを全部脱いで」「えぇ!?」水泳教室でスランプに陥っている小学生女子に、女性インストラクターが提案したのは…

裸のマーメイド

明らかに驚き、戸惑(とまど)う里菜ちゃんを横目に、さやかはさっさと服を脱いだ。一方で、里菜ちゃんは躊躇(ちゅうちょ)しながら、仕方なさそうに脱いでいった。それから裸になったふたりは海に飛び込んだ。

「裸で海に入るって、なかなかできないでしょ。先生は高校生のときに、裸のままプールで泳いだことがあるよ。すっごく気持ちよかった」

〝何が言いたいの?〟と言いたげな表情をしていた里菜ちゃんだったが、それを察したさやかは、

「泳ぐことは楽しいってことを伝えたかったの。いつもは水着を着るけど、あえて素肌で水の感覚や冷たさを感じ取ってもらいたかったの。うまく泳ぐことだけにとらわれるんじゃなくて、楽しみながら学んでいってほしくて、今朝呼んだの」

朝焼けがまばゆい海の中で、ふたりは、しばらく全身で海を感じていた。

サマーキャンプから戻ったあと、里菜ちゃんには以前のような曇った表情はなく、のびのびとレッスンを受けていた。そして一か月後には、進級テストにも合格することができた。

「ありがとうございます! 先生のおかげです」

「次のクラスでも頑張るんだよ」

里菜ちゃんからは笑顔がこぼれていた。それを見たさやかは、生徒と心が通い合った喜びを嚙(か)み締(し)めていた。

転職して、もうすぐ半年になる。営業事務の仕事でも、人と人の信頼関係は大切だった。だから、それなりに、そうした関係を築いてきたつもりだった。でも、これほどの充実感を味わったことはなかった。

〝何が違うんだろう〟

インストラクターの仕事はある意味、裸と裸で成長を感じることができるからではないか。私も裸なんだから。