帰り際、ふたりで上北沢駅まで歩きながら、咲き誇る桜を眺ながめた。そのとき風が吹いて、花びらが宙に舞った。
「春はやっぱり桜だね」
どちらからともなく、呟(つぶや)いたあとに、
「私、まだ諦(あきら)めたくないよ。本当は」
里紗が、かなえにぼやいた。
「だったら……」
「周りに協力してもらえないと叶(かな)わないよ。きっと」
「あなたいくつよ? 周りに協力してもらわないと恋を叶えることができないなんて高校生までだよ。好きな人に想い、伝えようよ?」
この、かなえの言葉で、里紗は高野さんに、遠からず気持ちを伝えようと決心したようだった。しかし距離を縮めずに告白すれば、玉砕(ぎょくさい)するに決まっている。そうかといって、距離を縮めるためには、どうすればいいかわからなかった。
*
だが、その方策は意外と早く見つかることとなった。桜まつりの、ほんの翌日のことである。里紗は、この年からダブルワークをしていて、ファストフード店でのアルバイトは週に数回夜に入り、平日の昼間は毎日、新宿にある住宅ローン会社で派遣社員として一般事務をしていた。その昼間の仕事中に、ふと思いついたのだ。
〝そうだ、高野さんが好きなビールを、サプライズでプレゼントしよう〟
高野さんは四月生まれなので、ちょうど今月が誕生日。前もって、プレゼントとして種類の異なるビールを三つほど買って渡しておいて、後日感想を訊いてから、一緒に飲みに行こうという作戦だ。
次回更新は1月31日(土)、21時の予定です。