里紗は、京王線の明大前駅から徒歩十分ほどのところにあるシェアハウスに住んでいた。四月上旬の日曜日、里紗はそのシェアハウスでともに暮らしているかなえと、上北沢の商店街が主催する〈桜まつり〉に出かけた。上北沢三丁目桜並木通りで毎年行なわれているお祭りで、たくさんの模擬(もぎ)店が出ていた。
かなえは都内の商社で働いていて、里紗よりひとつ年下のしっかり者だった。ふたりは、屋台(やたい)で買ったイカ焼きをベンチに座って食べながら、話し込んでいた。
「このあいだ、アルバイト仲間がね、『高野さんは飲むとヤバい』って言ってたの。私、どうヤバいのか直接知りたい」
里紗が言うと、かなえが返した。
「その場で訊(き)かなかったの?」
「まあ、誇張しているだけなのかも知れないし」
「その人、あまり里紗に合ってないと思うよ。キレたときに怖いって話とか、今のお酒飲んだときの話とか、聞いたかぎりだけど」
里紗は昨夏、アルバイト中に高野さんと些細(ささい)なことで言い合いになったことがあった。その後は、お互いに謝罪したが、その際に高野さんが、かなりキレたことを、里紗はかなえに話していたのである。
「そうかな? お互いに高め合える関係になると思うけど。叩(たた)き上げで社員になるような人だし」
「アルバイトから叩き上げで社員になった人は、うちの会社にもいるよ。友達にもそういう人いるし。どうしてそんなに、その人にこだわるの?」
「それは……」
里紗はうまく答えられなかった。