母は宮本を見るなりまたもや目に涙を浮かべています。まるで条件反射のよう(?)。でも今日の涙は今までと違う涙でした。思わず宮本も過去がフラッシュバックしてしまいましたが、救いはリセちゃんです。明るく楽しい会話が続きました。
「え~~髪の毛はね、中学生くらいから背が伸びるに従って、少しずつ黒くまっすぐになってきたの!」
宮本の書いた本二冊を手渡そうとすると、母は、
「二冊とももう買って読みました、泣きながら……」
すかさず横からリセちゃん、
「私も欲しい! サインしてもらったこの二冊は私が持つから、前の本はお母さんが持ってて!」
手術創でいじめられたことはないかと心配すると、彼女は服をたくし上げ、お腹と背中の手術創を見せながら、
「だいじょうぶ、こんなにきれいな線のキズになってるから、ビキニも着ちゃった!!」
今回のことは、小児外科医を三十年以上続けていることへの神様からのご褒美なのでしょうか? 宮本より後まで生きていくリセちゃん、定年間際の宮本には今後その輝きをどれくらい見ていくことができるのかわかりません。
だけど、こんなしっかりした子に育てたのだもの、お母さん、何があっても本人が乗り越えていけますよ。お母さんも一緒に長生きしてください。
節目節目で悲しいことは涙で流し去り、嬉しいことはいっぱいの涙でお祝いしながら。
(二〇一九年三月十六日)
コウスケ君が跳ぶ
新しい職場での慣れない夜の会議を終え家路を急ぎました。車を車庫に入れ、家に入り、ワイシャツをひきむしるように脱ぎ、冷蔵庫から出したビールを手に居間のテレビ前の定位置にどっかりと座りこみます。
おつまみは会議で出されたお弁当。ビール缶のリングプルに手をかけ……と、まさしくその時、携帯が鳴ったのでした。
大学退職後、久しく鳴ることのなかった夜間の電話、ディスプレイには見慣れぬ番号が並んでいました。