【前回記事を読む】「ここ、息子の家。」認知症が進行している老人ホームの利用者。玄関から出てきたのは、見た目が全く異なる男性で……

第1章 利用者さんとずっと一緒

カレー食べた?

中野さんの旦那さんは80歳代後半で、要介護度1の比較的軽い認知症の利用者さんです。夫婦そろって週三日デイサービスに来て楽しんで帰られます。

奥さんが旦那さんに話しかけました。

「今日のお昼は、服部さんがキッチンの日だからおいしいカレーライスだったね」

「うん、服部さんのカレーライスは本当においしいからな。でも今日のお昼ご飯遅いね。お腹すいたよ」

『日向ぼっこ』では利用者さんに家庭の味を楽しんでもらおうと、宅配ではなくスタッフが家庭料理を作って提供しています。今日の昼食担当は服部です。二人の話を聞いて服部もまんざらではありません。でも今日のお昼ご飯は、もう食べ終わっていました。

「服部さん、カレーライスまだ?」

「あなた、何を言っているの。今食べたじゃないですか。ごめんなさいね。この人すぐ忘れるから」

「いいのよ、お腹すいているのよね。おいしいお菓子があるからこれで我慢して」

中野さんは今昼食を食べたばかりにもかかわらず、お菓子をおいしそうに食べ始めました。それを見ていた他の利用者さんが、皆うらやましそうに中野さんを見ています。服部は一人だけお菓子をあげた事に後悔しました。皆の目が服部を非難している事は明らかです。食べ終わったのを見て、

「中野さん、一人だけお菓子を食べたから、罰ゲームでトランプのマジックを皆に見せてあげて」

中野さんは若い時から趣味でマジックをしており、衰えたといえど十分皆を楽しませる事が

できます。中野さんもまんざらではなく、早速トランプを出してマジックを始めました。皆それを見て盛り上がっています。トランプのマジックが終わった後、

「ああ疲れた。何も食べていないからお腹すいた。お昼のカレーまだ?」

「……」