入口から身を引いた。そうしてやらざるをえない状況だった。休ませてくれと言うのがどの程度の厚意を期待しているのか分からぬまま、客用のスリッパを框に並べていた。
タイルの沓脱ぎに、自分たちの体から滴り落ちる水滴を見て、男は上がるのを躊躇した。
「今、タオルをお持ちしますわ」
薔子は彼の配慮に促される感じで、浴室からバスタオルを二枚持ってきて男に差し出した。彼はその一枚を乱暴に女に巻き付けると、彼女を上がり框に座らせた。女は力なく上半身を壁にもたせかけた。
「僕は車を取ってきたいのですが、お願いできますか?」女にちらりと目を遣って薔子に頼んだ。
「ええ」
これも、承知するよりなかった。
男が雨の中に出てゆくと、薔子はもう一枚のタオルを靴箱の上に置き、女に腰をかがめた。
「お立ちになれます?」
女はこの五月の陽気に、ガチガチと歯を鳴らしてかすかにうなずいた。薔子は彼女のハイヒールを脱がせてやり、肩を貸して立ち上がらせた。薔子の肩にも女の雨水がしみた。
「バスルームにいらして。何か着る物をお出ししますから」