意外な展開だった。岡野は黙って幸枝の話すのを聞いていたが、誤解を招いてはまずいと思ってか、

「別に人さらいをしたわけではない」

と幸枝の傍で低い声で唸(うな)るように言った。

「この件は私が個人的に動いています。だから、そちらに都合の悪いことは話さなくて結構です」あらかじめことの流れを明確にしておいた方が、話が早いと踏んだ加賀の先手だった。

「うちの稼業はテキ屋と建築業だ。それは刑事さんもご存知のはずですね? 建設現場の作業員にはいろんな奴がいる。日雇いが多いからその日の現場近くで人を集めては仕事をさせている。だから、そいつらの素性はわからん。ただ、小さな子供を連れて現場に来た奴はあいつだけだった。見れば可愛い女の子だ」

岡野は時折幸枝の出した茶をすすりながら、変わらぬペースで話を進めた。みよこを連れて来たのは痩せこけた男で、まるで使い物にならなかった、と岡野は吐き捨てるように言った。

また、詳しくはわからないが、多分その男がみよこの父親であろうとも言った。そして、岡野はその男から十万円でみよこを買い取ったのだと話を続けた。

その日のうちに岡野家に連れて来られたみよこは、幸枝に丁寧に風呂に入れて貰い、近所の商店街でワンピースを買って貰ってとても喜んでいた、と幸枝は名残惜しそうに話してくれた。

「とっても利発で可愛い子だったのよ」

子宝に恵まれなかった夫婦にはもってこいの条件だったのであろう。

「でもみよこちゃんはいなくなったのですよね?」

と加賀が言うと、岡野もみよこを可愛く思い、本心から娘として育てたかったのだろう、

「あいつにも親心があったってわけだ。親には勝てまい」岡野は少し温和な顔つきで言った。

その後の話で、父親と思われる人物がお金を返しみよこを連れて帰ったとわかった。

幸枝はみよこのその後を気にかけているようだったが、亡くなったと言えなかった加賀は、話を曖昧にしてその場を後にした。たとえ家業がヤクザでも、生きていればその後人生がどう転ぶかなんて誰にもわからない。生きてさえいれば、と加賀はやりきれない気持ちになった。

次回更新は1月28日(水)、21時の予定です。

 

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