【前回の記事を読む】空き地で見つかった幼女の変死体。2週間経っても親が見つからず、近所の人によると「1年中同じ服を着ていた」

赤い鞄

目的地までは十五分足らずで到着した。組のものはまた刑事が来たと、今にも嚙みつきそうな勢いで飛び出して来た。しかし、加賀が女の子の話を聞きに来た、と言うと少しばかり距離を置き奥へと通してくれた。

しばらくして組長の岡野(おかの)が現れた。背丈は加賀より幾分低いが、胸板の厚いどっしりとした風貌はいかにもヤクザの組長らしかった。加賀は刑事になって以来、暴力団関係の部署に配属されたことはないが、ヤクザの醸し出す独特な雰囲気は、署内を見渡せばいつもどこかに影を落としていた。

特に幹部クラスにもなると、隣をすり抜ける風でさえ刃物を携えていそうで、そんなものとすれ違う時には「でかいツラしやがって、全員あの世にでも行ってしまえ」と心の中で呟いた。

お茶を出してくれた和装の女性は岡野の妻であろう、派手な顔つきだがどこか憂いの漂う美人だった。元は繁華街のクラブで働いていたのだろうか、着物をきっちり着こなし立ち振る舞いも堂に入っていた。

「女の子の話を聞きたいと伺いましたが」

岡野はゆっくりと喋り始めた。

どこの世界も能ある鷹(たか)は爪を隠すと言う、ヤクザの世界も同じだな、

と加賀は思いながら、

「ええ、この女の子をご存知ですか」例の写真を岡野に見せた。

すると、岡野より先に妻の幸枝(さちえ)が声をあげた。

「もしかして、これはみよこちゃんではないかしら?」

この人もまた顔のない写真を見て服装だけでみよこと言い当てた。少し悲しくなった加賀だったがみよこの名前が出たことは嬉しく、

「はい、みよこちゃんです。この子について何かご存知ありませんか?」

加賀は幸枝に向かって話しかけた。幸枝は話してもいいですか?と岡野に目配せをした後にゆっくりと話し始めた。

「秋口にこの人がどこからか連れて来た子なんですよ。私たちには子宝が授からなかったものですから、私はもう嬉しくってすぐにでもうちの子になって欲しいと思っていたんですよ」