林は目をこすり、外へ出た。
「さぶっ」
朝もやが肌をひんやりと撫でる。太陽は山の稜線からまだ顔を出していなかったが、空は明るかった。
林は肩をすぼめ、数歩先にたむろしている仲間に近づいていった。
「だめだ」早坂の声。「圏外だよ」
「私も」と泉。
「俺のもやっぱりだめだ」と盛江。
三人はそれぞれ異なる電話会社を契約していた。この三人が全滅ということは、キャンプ場の電話連絡手段は完全に途絶えたも同然である。
観光案内所に回線電話があるが、施錠されていて使えない。
係員がやってくるのは早くて七時半。まだかなり時間がある。
「おかしいなぁ」盛江は自分の電話を振って忌々しげに言った。「昨日は大丈夫だったのに」
「昨夜の地震で電波塔が壊れたのかしら?」――電波塔? そんなものあったっけ?
林は周囲の山々に電波塔に類するものを探した。鉄柱も電線も見当たらない。
ちょうど南の空に視線を向けた時、「あッ !?」林は思わず声を上げた。
早坂ら三人が一斉に振り返る。
「おお、林、起きたのか」
「どうしたの?」
「脅かすんじゃねえよ!」
「これを驚かずにはいられないよ!」
林は南の山並みを指差し
「あれを見なよ」
三人は言われるままに南の稜線を仰ぎ見た。
一瞬、間を置き、また目を凝らす。顔をしかめ――もう一度凝視。
そして息を飲み、「あっ!」一斉に声を上げた。
薄水色の南の空、そびえる浅間山の形が、昨日見た姿と違っていた。
「浅間山が少し大きくなってる!」泉は興奮気味に言った。
盛江は瞬きもせず山の稜線を見つめ「確か、こう、もっと尖っていたよな?」
早坂は唾を飲み「噴火したり、隕石がぶつかったりして、山のボリュームが減るなら分かるが、山が高さを増してさらに尖ったり、しかも一夜にして裾野にあおあおと植物が茂るなんて、ありえないよ。一夜の変化にしては異常だ」
「昨日の爆音と何か関係があるのかな」
林の疑問に、三人は首を傾げて黙っていた。
次回更新は1月26日(月)、22時の予定です。
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あくまで仮説だ。だが否定のできない仮説だ