上空からの映像は、何台もの救急車や足早に動く救急隊員を捉え、ことの悲惨さを物語っていた。容疑者と思われる男性の顔写真は、笑っているのに笑っていない不思議な笑みだった。

数日間テレビをつければ話題はその事件ばかりだった。テレビを観ることがあまりない徹だったが、あの容疑者の笑みがどうしても頭から離れず、ついその話題をやっている番組を観てしまっていた。

そして時間が経つに連れ容疑者の背景を番組が取り上げ、精神科に「措置入院」をしたことがあると報じていた。

夏海が自傷行為を突発的に繰り返すので、カウンセリング時に徹が主治医に相談をした際、「ご心配でしたら措置入院をされますか?」と主治医から話を持ちかけられた。

夏海と離れて暮らすのは嫌だ、という徹のわがままな思いからその話は断り続けていた。

「自傷行為で命を落とす方もいるのですよ」

生死を預かる主治医の言葉は徹を責めているようにも聞こえた。「大丈夫です。ぼくが常に傍にいますから。もう二度と自傷行為はさせません」

ぼくは強くならなければいけない。誰かを守るということは、今までの投げやりな自分ではダメなんだ。夏の空に湧き出た入道雲のように、徹の決意は厚みを持ち揺るぎないものへと変わった。

今の夏海にこの世の言葉は通じない。「老婆」はついに夏海の全てを喰い尽してしまった。しかし、医師はいつか完治するから、今まで通り穏やかに過ごしてくださいと言った。

徹はその言葉だけを頼りに、処方された薬を毎日欠かさず夏海に服用させている。薬だけが命綱のような生活を、夏海はどう感じているのだろうか。徹が感じている周りに対しての憤りを、夏海も感じているのだろうか。

いや、夏海はもう何も感じることはできない。徹は夏海の家族に対して憎悪を感じていた。面倒なことから逃げ出し、夏海を見捨てた人間は地獄へ堕ちればいいとさえ思っていた。

一番近くにいるものだけが感じる憤りは、自分だけのもので構わない、と徹は夏海の爪を切りながら考えていた。

次回更新は1月20日(火)、21時の予定です。

 

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