「引き上げるんですか?」

「こいつが登り返せなかったらな」

「あの、藤山さんは?」長倉が聞いた。

「藤山?」

「下の人」

「ダメだね。もうそろそろ死ぬよ。スリングで固定しておいたから落ちることもない。小禄は春になったら回収できる」

「そんな……」

「お前一人引き上げるので精一杯だ」

「ひでぇ、酷すぎる……」

「お前、いい加減にしろよ」と、鬼島の声が荒くなった。

「ぐずぐずしていたら俺らも危ない。無理だよ」と川田が言った。

「だったら、あの……ここで待機して救助を待つとか……」

長倉はもはや泣き声になっていた。

「少くとも明後日にはとんでもない寒波が来てドカ雪になる。その時点でこんなところにいたら三人とも凍りついて終わりだよ」と川田は長倉の肩に手を乗せながら言った。

「長倉君、冬の剱は本当に厳しいんだ。今、俺らだって危機的な状況にいることくらいわかるだろう?」

次回更新は1月19日(月)、8時の予定です。

 

▶この話の続きを読む
今日ヘリを飛ばすのは不可能。救助のチャンスは明日の夜明けから昼前まで。それを逃すと、次のチャンスは4、5日後…

【イチオシ記事】「明るくて…恥ずかしいわ」私は明るくて広いリビングで裸になる事をためらっていた。すると彼は「脱がしてあげるよ」

【注目記事】大やけどで真っ黒になった、壊死した指。両手10本とも第1関節から切断することに