「お会いしたばかりで申し訳ないのですが」
「どうしましたか」
「じつは、この月一(ひとつき)くらい、ずっと下痢なんです。街で買った薬を飲んだりしたのですが、なかなか治らなくて。食欲もないし……」
「熱は?」
「ありません」
「お腹は痛みますか?」
「いえ、あまり痛くは……」
「一日に何回くらい下痢しますか?」
「そう、七、八回かな」
「便に形はありますか? それとも水のような便ですか?」
「ええ、そう、水みたいなんです」
「下痢が始まったのは、何かきっかけがありますか?」
「その前に風邪をひいて、大分長引いたのですが、その後から下痢が始まって……」
「便の色は?」
「色? ううーん、普通かなあ」
「血が混じったりしてませんか?」
「それはないと思います」
「じゃあ、お腹を診てみましょうか。そこへ寝てみて下さい」とベットを顎で示すと、
彼は素直にベッドに仰向きに寝て
「これでいいですか」とシャツをまくり上げた。
木田はトランクに残っていた聴診器を探し出し、型通り診察したが、話を聞き始めたときから重症でないことは分かっていた。
「大丈夫ですよ、直ぐに良くなりますから」
木田の言葉を聞いて彼は明らかに安堵の表情を見せた。木田から見れば大した症状とも思えないが、彼としては長く続く下痢に相当不安だったようだ。
これなら、NGOで用意された医療用薬品セットをわざわざ開封するまでもなく、自分の手持ちの救急薬品で充分である。
「とりあえずこれを飲んでみて下さい。ダメならもっと強めのもありますから。数日飲んでみて未だ良くならなかったらまた教えて下さい」「あ、有難うございます。助かります。じゃあ、しばらく飲んでみます」
木田から数日分の止痢(しり)剤を受け取って、彼は部屋を出て行った。
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