よく見ると、口紅がすこし唇からはみ出ている。
それが、どこか無理して大人ぶってるように見えて、かわいかった。
窓の外は、かなり暗くなってきた。
希恵が銀座の女に変身していく様を見ていて、ヨシオも自分が大人の男であることを自覚するのであった。
暗くなったせいか、町にある、街路樹のイルミネーションがやけに綺麗に見える。
ボーイが来たので、ヨシオはカプチーノを頼んだ。
「希恵は何にするかい」
「あたしは、ミネラルウオーターでいいわ」
「なんだ、なにか頼めば」
ヨシオがそう言うと、
「あなた、何も分かっていないのね」
そう言って、希恵はくるりと背を向けると、鏡を取り出し、化粧直しを始めた。
口紅がおかしいことにきづいて、希恵はヨシオを少しきつい目で見た。
何で言ってくれないのか、それとも、自分のミスをカムフラージュしたいのか分からないが、希恵は背中を向け、意味のない時間が暫く続いた。
自分の思いをため息をつくように、希恵は振り向き話し始めた。
「姉の店も、いつまでもつか分からないのよ。繁盛してれば、銀座の一流ホステスは揃えられるけど、コロナのせいで、お客さんも激減よ。
ホステスさんに払う給料も滞ってる。ホステスさんを減らして、私がピンチヒッターで呼ばれているわけ。もともと、親父の道楽で始めたクラブだから。親父は会社の重役だから日本にいるときは、接待なので、店は大繁盛だったけど、今、親父は、インドの支店長をやっているから、接待の仕事も取りにくいしね」
ヨシオは、希恵の人生相談の聞き役のようだった。
「それで、お母さんは」
「もちろん一緒よ」
希恵は、そういって、立ち上がると、ヨシオを連れるようにして、店を出た。
夜の七時頃になると、クラブに出勤するホステスが多く歩いている。
「あら、希恵じゃない?」
右横を歩いていたホステスから声をかけられた。
「あ、ミチ。今日、ヨシオを連れてんのよ」
「え、ヨシオ? あらほんとだ」
希恵に言われて、驚いた。同級生の女の子だった。
彼女は、別の理由で、ホステスになったようだ。 高校三年の十二月。卒業式まで、あと三か月だった。
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