「今日は本当に、お越しいただいてありがとうございました」と、長倉の父親が長い沈黙を破り、「家内です」と女性を紹介する。もっと早く来るべきだったものを、ここまで引き延ばしたおかげで罪悪感が増していたので、父親の言葉は素直に染み入り、来るのが遅くなり申し訳なかった、とまず詫びる。

「そちらも怪我をされて、入院されていたのでしょう? 大変だったでしょう」

そうして言葉を繋ぐ父親も、そのうちに視線は卓の上を泳がせるようになり、気づけばあまりこちらを直視することもない。言葉も尽き、また沈黙が混じるようになると、父親が「お茶をどうぞ」と勧める。

呼応して冷め切った湯呑みに手をかけ口元まで引き上げた時、あの滑落事故による凍傷で切り落とした右手の中指、薬指、そして小指の三本の切り口を、長倉の両親が見つめる。視線を感じたまま湯呑みを下ろすわけにもいかず、そのまま茶を飲む。湯呑みを置くと、右手を握り、左手で覆う。

でも、左手もまた、薬指と小指を切断したので短い。隠しようもない。

「大変でしたでしょうね。私らには想像もつかないけれど、そりゃあしんどいのでしょうね」

そう言いながら、一回り肩を落とした父親が小刻みに頷く。母親はまだ、卓の上に視線を落とし続けている。

「もう大分良いです。ほとんど支障はないですし」

「いや、しかし。大変でしたでしょう。透と一緒に、雪に埋まってらしたのですもんね」そう言われると、そうだ、自分も雪に埋まっていたのだと、改めて思い出す。

次回更新は1月3日(土)、8時の予定です。

 

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「息子は何で死ななけりゃならなかったのか……本望だった、本望だったって、そう思わんと救われんのでね」

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