次の回、七回もトムがマウンドに立つ。彼は落ち着いて投げる。三振も一つ取り、難なく三者凡退で試合を締めた。
試合が終わり、一礼して、円陣をして相手チームにエールを送ると、僕は改めて祝福された。
「オマエ、初打席でホームランなんてスゲェーな!」
「一年生でホームランなんて生意気だ!」
「まぐれ! まぐれです」と僕。ニコニコしながら先輩や同級生の祝福をありがたく受けた。
僕は、次の週の練習が終わった帰り道、仲間たちと話していた。「この前の試合、まぐれでホームランになったけど、あれと同じような当たりを小学生の時に打って、その時は狭い所だったので、グラウンドの横の家の窓ガラスを割ってしまった」僕は言った。
「へぇー、ジョニーは都心の家に住んでいるから、野球をやる場もろくになかったのか」とジョン。
「まあな。しかし、その時はものすごい勢いで怒られた。母親と一緒に高級イチゴを持って謝りに行ったよ」
「いや、いいのだ。今回はすごいホームランだった! ホームランなんて、そんなに打てるものじゃないぞ!」トムはいつも前向きに鼓舞してくれる。
「でも、結構、複雑な気持ちだよ。同じ打球で謝罪と祝福。この差って何だろう、って」「それが人生なのかもなぁ。まぁ、いいじゃん。状況や環境によって物事は色々と変わるということだ」ジョンはいつも冷静で、なんか哲学的だ。
上級生の試合では下級生はベンチにも座れず、横の方に一列に並んで立ったまま応援していた。二時間も、面白くもない試合を見ているだけで疲れる。「何故、下級生は、ただ、ボーッと試合を見てないといけないのだ?」ジョンは、ある日の練習試合後の帰り道に言った。
「本当にそうだよな。必要のない者は、何か他のことをやっていた方が良い」僕も同調。
「少なくとも座らせてもらいたいよな」ジョーの言うことはもっともだ。
「まぁ、あともうちょっと。来年の夏までの我慢だ」とトムは言った。
秋の大会も終わり冬になると、野球部の練習はグローブやボールを使わず、ランニングやサーキットトレーニングなどの体力作りが活動の中心となる。
上級生と下級生の体力は違うし、同学年でもこの頃は体力的な個人差は結構ある。だから、同じようにやると、ついて行くのが難しい人もいた。野球を好きでも、その冬の練習で挫折してやめてしまう者も何人かいた。
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