結局、後援会は無くならず、女将は百五十歳まで生きることになった。
「道長君。君、右近ちゃんのマネージャーやり。本来は、そういうことも女将がするもんやが、あれは使えんわ」との望月の言葉に、咲が何度も頷いた。
「道長君。右近ちゃん。雷子さん。もう心配いらん。儂が、君らで稼げるようにするから、相撲の方に集中してくれたらええ。
それと、本場所に通うんやったら電車で移動っていう訳にもいかんやろ、儂の車を運転手付きで貸すわ。部屋に駐車場あったな、普段もあそこに停めとったらええわ。相撲部屋として再出発するんやったら、色々と準備せなあかんな。長いこと、桜田部屋から離れてたけど、これから忙しいなるな」
望月の声は、別人のように力強くなっていた。借金先への交渉は、望月のお抱え弁護士が担当し、交渉はスムーズに行われた。
望月は再び、桜田部屋に訪れるようになった。
望月が「右近」と呼ぶ時は女将(初代右近)のことであり、二代目右近は「右近ちゃん」と呼んだ。
女将が、自分のことも「右近ちゃん」と呼べと言ったら、「フリーズドライ右近ちゃん」と言って、女将にお玉で頭を殴られていた。
女将が「借金も甲斐性のうちだ」と言ったら、逆に望月にお玉で頭を殴られていた。
望月が「右近ちゃんの時代が来て良かったなあ」と言ったら、女将は「私の時代はこれから来るんだよ」と返していた。
久しぶりに会って、女将が随分と身体が縮んでいたことに望月は驚いたが、気の強さは相変らずだったので安心した。