可哀想という同情などはなく、心の中の本音は「馬鹿な女、私は絶対男に騙されないわ」だった。ベッドの隣でB子の煩く、まとわりつくいびきは朝まで続くのか、そろそろ帰りどきなのか、と枕に耳を当て目を閉じた
光を遮断したカーテンの隙間から漏れる、午後の日の光に気づく由記子は、ベッドを離れキッチンの暗いカーテンを、思いっきり開けた時だった。
初秋の心地よい日差しが部屋中に広がってゆく、そして由記子は何かに気づいたように、バッグを引き寄せ帰り支度を始めた。
眠そうな目で寝室から顔を出すB子が、「帰るの?」そう言いながら、音もなく近寄るB子が言った。「ねえ、お金貸してくれない?」予測できた由記子は思った。もうB子と会う事はないのだろう、と。
「えっ、いいの?!」お金は返さなくていいと言った途端B子は、嬉しそうにキッチンへ行くと珍しく、「コーヒー飲むでしょ」と聞いた。
駅へと向かう途中B子に、「変な薬は飲まない方がいいよ」と言いたかったが、機嫌の良い顔のB子に、またも言いそびれた由記子だった。僅かなお金に喜んでくれたなら、それで良いと自分に言い聞かせた由記子は、さよならを言うだけだった。
由記子はお金に関する、嫌な出来事があった。それは昼間ウエイトレスをしながら、夜の店を探していた時のことだ。突然掛かって来た電話の声は、あの冬の夜由記子を冷たく突き放し、悲しみの底へと落とした男、紛れもなくKの声だった。
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