それから由記子はB子のマンションで、もう三日も寝泊まりしていた。毎晩飲み歩く若い二人には、先の事など見えないのか、ただ面白おかしければ何も言うこともないのだろう。
ある日の夜真顔になったB子の、「私結婚したけど別れたの」それは嘘だった。妊娠したB子は結婚とはいかず、長い間揉めた末に手切れ金として、古いマンションを貰ったが、その後悪い男に騙され、泣きを見たと言う。堕ろせず産んだ子供が実家に居るとも言った。
同情のつもりか「結婚なんてしなくていいよ、男なんて、ロクなもんじゃないしね」知ったかぶりをする由記子に、確かだと頷くB子は嬉しげにガハガハと笑った。
急に話を変えるB子が言った。
「お店に歌手のYAが来てさ、誘われたからHしちゃったんだ」
YAとは一発屋で終わった演歌歌手の事だった。
「あっちの方がYAって凄くてさ」
華やかだった絶頂期の思いからか、涙さえ浮かべるB子。涙は苦い味に変わってゆくのか、顔を下に向け「薬飲んでたからさ、途中で眠っちゃった」そう言うとポーチから薬を取り出し、口の中へポイと入れると目の前にあったビールをカブカブと飲んだ。
「アルコールと一緒に飲むのは良くない」
喉まで出かかった言葉が止まった。何かを忘れてゆくのか、気持ち良さげにコロコロと笑うB子が、やがて薄目になり白目を向ける、B子を見て由記子は思った。