今でも、ナマズを見かけると、あの時の光景が生々しくよみがえる。
一方、幸三の感動とは無縁の隆は、まるで勝ち誇ったように、大声で叫んだ。
「幸ちゃん、今日も、大漁だ、大漁だ。おまえにも、分け前をやるからな。でも、このたなごは綺麗だから、小川に戻そうっ……。ナマズは父ちゃんに料理してもらい今夜叩いて天ぷらにして食うぞ……」
そう言うと、タナゴを上流の浅瀬に放してやった。
隆との子ども遊びは、楽しく懐かしく、今でもすぐに思い出すことができる心地よい記憶として残っている。
授業は、幸三のクラスは生徒が3人なので授業中は、気が抜けない。昼の手作り弁当を食べた午後の授業では、ときどきうつらうつらして、眠くなる。窓の外を悠々と飛んでいるトンボを見て、「トンボのように自由に飛び出して遊びたい」と思った瞬間に、気が遠くなった。
「こら! 幸三! 何をしているんか! ちゃんと起きて授業を受けて! 居眠りなん ぞしちゃあだめだぞ!」
先生に叱られるほど、田舎の授業はあまりにも退屈であった。
やがて隆は、小学校を卒業し、町の中学に進んだものの、高校には進学せず、村の数少ない就職先である産物集荷市場に両親のつてで就職した。その後、町の学校で偶然すれ違うことがあっても話す間もなく、その後、隆がどのような人生を歩んだのかは伝わってこない。
4月から、幸三も町の中学校に進学した。町は、人口が8万人ほどの山間の町で、地元の林業や農業、大阪から進出してきた工作機械の部品工場、タオル縫製会社などの産業がある。