第一章 特殊造形アーティスト・吉沢コーダイ
「ムービー・マジック」に魅せられて
映画の都ハリウッドを擁するロサンゼルスにある特殊効果制作スタジオで、私は現在、映像の“魔法”を生み出す仕事に携わっています。
皆さんは、どんなジャンルの映画をご覧になりますか?
「ホラー映画はちょっと苦手……」という方も、少なくないかもしれませんね。実は私自身も、小さい頃はホラー映画が大の苦手で、怖くてまともに観ることができませんでした。スクリーンの中の世界が現実とあまりにも自然につながっているため、観終わった後も恐怖が長く残ったのを覚えています。
けれども、そんな「恐怖の裏側」には、驚くような創造力と、驚異的な職人技術が詰まっていることに、のちに気づきました。例えば、『エクソシスト』(1974年)の中でも有名な、悪魔に憑依された少女リーガンが首を360度回転させるシーン。今観ても衝撃的な映像ですが、観客の多くが「どうやって撮影されたのだろう?」と驚くはずです。
このシーンは、特殊メイクの巨匠ディック・スミスによって、子役の顔をもとに制作された精巧な「ダミー人形」を用いて撮影されました。
首の部分には回転軸と歯車の仕組みが内蔵されており、スタッフが手動でゆっくりと回すことができるようになっていました。さらに、目の動きや「ゴキゴキッ」と鳴る音響効果、霧のように漂う白い吐息の演出が加わることで、まるで本当に少女の首が回転しているような錯覚を生み出していたのです。
私は、まさにその「映像の魔法=ムービー・マジック」に心を奪われ、この世界で働くことを決意しました。そして今では、かつてホラー映画に目を背けていた自分が想像もできなかったような形で、ハリウッドの数々のホラーやSF映画の制作に関わるようになっています。