そして出発の朝になりました。
女の子が目を覚ましてあたりを見てみると、旅人の姿(すがた)がどこにもありません。
女の子は砂時計の中から、旅人のことを探(さが)してみました。
でも旅人はどこにもいません。
女の子は急(きゅう)にさみしい気持(きも)ちになりました。
今日(きょう)も自分(じぶん)の唄う歌を、旅人が聞いてくれるものだと思っていた女の子が、
“もう私(わたし)の歌を聞いてくれるあの人(ひと)はいないんだ”
と思った時(とき)、とても悲(かな)しくなってしまいました。
旅人がこの場所(ばしょ)に来(く)るまでは、女の子は自分のために歌を唄っているだけでした。
でも旅人が目の前(まえ)に現(あらわ)れて自分の歌を聞いてくれるようになってからは、女の子は知(し)らず知らずに旅人のために歌を唄っていたのです。
旅人が楽(たの)しそうに聞いてくれていると、女の子も楽しい気分(きぶん)になりました。
旅人が嬉(うれ)しそうに目を閉(と)じて自分の歌を聞いていると、女の子もとても嬉しくなったのです。
でも、その旅人はもういません。
女の子は一人でいるのがとてもさみしくなり、すごくすごく悲しくてたまらなくなりました。
女の子はもう一度(いちど)、旅人に会(あ)いたいと心から思いました。
そう思えば思うほど、女の子は悲しくて悲しくて、流(なが)れ出てくる涙(なみだ)を止(と)めることができません。
女の子はこの気持ちが何(なん)なのか、まだ気(き)づいていませんでした。
旅人はいつもより早足(はやあし)で進(すす)み、山をもう二(ふた)つもこえていました。
三(みっ)つめの山に登(のぼ)ろうとしていた時です。
旅人はふと、後(うし)ろを振(ふ)り返(かえ)りました。
あの大きな砂時計からはずいぶんと離(はな)れてしまっていて、もう見ることもできません。
砂時計から離れば離れるほど、旅人は女の子の歌が聞きたいと思いました。
もう一度女の子と会って、あの唄声を聞きたいと思いました。
そう思ったとたん、旅人は今来(き)た道(みち)を戻(もど)り始めていました。
旅人は、ただただ女の子に会いたかったのです。
(どうしても会いたい)
その気持ちだけが旅人を走(はし)らせていました。
旅人はこの気持ちのことを、何と言(い)えばいいのかまだわからずにいました。
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