砂時計すなどけいなか唄姫うたひめ

旅人(たびびと)は、旅(たび)をずーっと続(つづ)けていました。

あちらの町(まち) こちらの村(むら)

あちらの山(やま) こちらの谷(たに)

旅人はいろんな所(ところ)に行(い)き、ありとあらゆるものを見(み)てまわっていました。

ある日(ひ)のことです。

旅人は山の中(なか)で、とてもフシギなものを目(め)にしました。

それは、すごく大(おお)きな砂時計(すなどけい)でした。

家(いえ)ひとつ分(ぶん)よりももっと大きくて、まるでガラスでできたお城(しろ)のようです。

(すごいなァ……こんなの初(はじ)めて見た……)

旅人は驚(おどろ)いて、その砂時計をしばらくの間(あいだ)見つめていました。

するとどうでしょう。

その大きな大きな砂時計の中から、女(おんな)の子(こ)の唄声(うたごえ)が聞(き)こえてくるのです。

なんとなくよく見てみると、その大きな砂時計の中に、一人(ひとり)の女の子が立(た)っていました。

その女の子がきれいな声(こえ)で、歌(うた)を唄っていたのでした。

旅人は、女の子の唄声をとても気(き)に入(い)りました。

(なんてきれいな声(こえ)だろう。なんて素敵(すてき)な歌だろう)

旅人は、その日もたくさん歩(ある)いて疲(つか)れていたので、座(すわ)りこんでしまいました。

そして、そのまま女の子の歌を聞きながら、眠(ねむ)ってしまいました。

次(つぎ)の日の朝(あさ)、旅人が目を覚(さ)ますと女の子はもう歌を唄っています。

旅人は朝からずっと女の子の歌を聞いて過(す)ごしました。

次の日も次の日も、そしてまた次の日も旅人は旅のことも忘(わす)れ、女の子の歌を聞き続けました。

そんな日々(ひび)が何日(なんにち)続いたでしょう。

旅人は、もうそろそろ旅に出(で)なければと思(おも)い始(はじ)めていました。

旅人は、今(いま)までずーっと旅を続けてきたのだし、これからもずーっと旅をしていくのだと決(き)めていました。

旅を続けるためには、いつまでもここにとどまっているわけにはいきません。

(あしたの朝早(はや)く、ここを出発(しゅっぱつ)しよう)

旅人は心(こころ)の中で、そう強(つよ)く決心(けっしん)しました。