二クール目の治療の日々を和枝は淡々と過ごしていた。
仕事が休みの廉は、数時間前に届いたメールをまた読み返していた。
「治療するために生きているんじゃないよ。生き続けるために治療しているんだよ(笑)」
床に散らばったシャツやタオルを拾い上げ、浴室に持っていき、深夜にもかかわらず洗濯機の始動ボタンを押す。
リビングに戻ると、つけっぱなしのテレビには、インタビューを受ける歌舞伎役者の坂東玉三郎が映っていた。
「仕事を、人生をどんな風に捉えていますか」
「遠い先のことは考えない。明日だけを考えています。きょう明日を充実させることに尽きる。それが自分の人生を創っていってくれる」
翌日の土曜日、遥が廉に「英語教えて」と頼んできた。
中一では文法は習わないんだっけ? と疑ってしまうほど、とにかく構文をまるで理解していなくて、教えようがなかった。
ところが十行くらいの問答形式の英文を見つけ、試しに訳させてみたら、これが面白いことになった。
「Your T-shirt is very nice.」には「ユーのTシャツ、イケてるじゃん」、そして「Is your father a photographer?」には「おたくの父さん、写真家ってこと?」と、アジな訳文をつけてきた。
全く理解していないわけではなかったのだ。さらに廉の笑いを取ることも忘れていない遥の発想が愉快だった。「どうせやるなら楽しもう」というところは、和枝に似たのだろうなと思った。
次回更新は12月21日(日)、21時の予定です。
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