「私は末期がんなのでしょうか」
「『ステージⅣ』イコール『末期がん』ではありませんよ。ステージとはあくまで治療方針を確立するための線引きです。末期というのは、がんによって生活の大部分を寝たきりで過ごさなければならなくなった状態のことなのです」
「先生、私はこんなに元気なのに、なぜ敢えて具合の悪くなる治療を受けなくてはならないのですか」
「平林さん、あなたは元気です。そう、元気だからこそこの治療が受けられるのです。あくまでこれは治すための化学治療。体力的に抗がん剤治療も点滴も無理という患者さんもいるんですよ」
治療方針の補足として、最近ニュースにもよく取り上げられている分子標的薬が効くEGFR遺伝子変異が、仮に和枝の体に認められたとしても、その薬は和枝の罹った種類のがんではなく、「肺腺がん」に効果が認められているものであるため、今のところ処方は考えていないとも言われた。
この時点では和枝の遺伝子検査の結果は出ていなかったのである。