「あっ!」

「ふえぇ! な、何、いきなり」

「これじゃないですか?」

摘まんだ小さな正六面体をもう片方の手の平に置いて掲げる。

「……あ、これだー、良かったぁ、見つかったよー」

夜深から受け取ったサイコロを手に、女子生徒は安堵と喜びの表情を浮かべた。一件落着し、そこで夜深はずっと気になっていた疑問を今頃になって口にした。

「てか、なんで麻雀の道具を?」

女子生徒はキョトンとする。目をパチパチさせながら、いきなり吹き出した。

「あははは、今それ聞くんだ?」

「まあ、ちょっと気になったので」

「……やっぱり、貴重な青春を女子高生が麻雀に捧げるのは変かな?」

覗き込むように向けられた瞳には不安の色が滲んでいた。言葉を飾る必要はないと考え、夜深は思ったことを素直に伝える。

「好きなんでしょ? だったらいいんじゃないですか」

むしろそれだけ好きになれる何かがあることが、羨ましいくらいだった。

するとまたキョトンとした表情をし、女子生徒は「うん!」と満面の笑みを浮かべる。

それはまだ開花前の木々の中で、気の早い満開を咲き誇らせた桜樹のようだった。わずかな間、視線を釘付けにされていると、女子生徒がスッと顔を寄せてきた。

心臓がトクンと跳ね、夜深は焦って一歩後退(あとずさ)る。

「そういえばさあ、きみって月峰の生徒なのかな?」

疑問に納得し、冷静さを取り戻す。私服姿なので不審に思うのも無理はない。

「そ、そうですよ。正確には四月からですけど」

それを聞くと、途端に女子生徒は目を輝かせ、声を弾ませた。

「じゃあじゃあ、きみは後輩くん。新入生なんだ?」

あまりの食い付きに「ええ……まあ、はい」と、今度は若干引き気味に後退る。

「名前」

「はい?」

「きみの名前を教えて」

期待の眼差しと勢いに気圧(けお)されて、夜深はよく考えもせず自己紹介をした。

「結崎夜深です」

「ゆいざきよみ? くんだね、そっか……よし」

麻雀ケースを抱えたままグッと両手の拳を握り、どこか意気込むような様子を見せる。それから嬉しそうに身を翻して、片手で小さく手を振ってきた。

「じゃあ、また四月にね」

ニコリとそう言い残し、女子生徒はまだ蕾の桜並木の中を駆けていった。取り残された夜深は、その後ろ姿に視線を奪われたまま、ただ呆然と見送るのだった。

 

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