検査の合い間に和枝は、二十四時間分の尿を貯めて腎臓の機能を調べる検査の説明を看護師から受けた。抗がん剤治療は肝臓と腎臓の対応力が重要で、今回の検査は腎臓の排毒能力を見るためのものだった。和枝は不明な点は些細なことでもすぐに質問し、淡々と検査に応じている。

廉は病院スタッフの懇切な応対と、何より和枝自身のしっかりした動きに「これは必ずうまくいく」と感じていた。病室に戻った和枝が、朝、遥から渡された紙袋をベッドの上で開けた。尻尾に「K」のイニシャルが付いた折り鶴、布や毛糸で手作りしたお人形、遥が幼い頃から夜は肌身離さず抱いていた安眠グッズ。そして「ママ、ファイト!」と書かれた手紙が出てきた。

和枝は手紙の文字を追い、その安眠グッズであるくしゃくしゃの毛布カバーの切れ端を抱きしめながら、振り絞るように泣いた。

夕方、和枝と廉は本館一階の喫茶室に寄った。一杯のコーヒーとオレンジケーキを二人で分け合った。

「じゃ、よろしくお願いします、廉」

「和枝に負けないように、遥と暮らしていかないと」

「そうよー、ちゃんと暮らすのよ」。

和枝の笑顔が眩しかった。

病院からの帰路は圏央道、下道とも大渋滞に引っかかり、通常四十五分のところをたっぷり二時間かかった。家では和枝の姉の真咲と、その娘で大学生の綾が掃除やキッチンの片付けまでやってくれ、遥と一緒に晩ご飯も済ませてくれていた。気が付くと和枝からメールが入っていた。

「きょうはありがとう。あのあと高井先生が来て、今日の検査はすべて結果良好ですって。じゃあ店じまいします。おやすみね~」

廉は翌日から特別に休暇をもらうことになっていた。一週間前、平林家に持ち上がった一連の出来事を、廉が所属長の時村編集長に報告したところ、「仕事のことはおいおい考えましょう。とにかくすぐに全力で奥さんのサポートに入ってください」と即答されたのだった。

管理職としてはどこまで許可を出せるか、部内の要員状況を勘案する時間が必要なはずだ。でも時村さんはとにかく即答してくれた。しかも真っ先に妻の病状を案じて。廉には、人の言葉としてそのありがたさが心に沁みた。

次回更新は12月10日(水)、21時の予定です。

 

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