その頃から、私はハギにはもう恋はしていなかった。しかし長く付き合えば付き合うほど、別れるのが怖くなっていった。きっともう一人ではいられない。それにハギのことを愛していないわけではなかった。ハギは相変わらず私の言うことを何でも聞いたし、それに対して罪悪感や後ろめたさを感じないこともなかった。

セックスもなくなることはなかった。たとえ自分から求めることが多くても、別に恥ずかしいことではない。女にだって性欲はある。セックスがしたいと思ってもいいはずだ。そう自分に言い聞かせた。

実際、ジョイナスに来ていた既婚者の女の子にも私は同じアドバイスをした。

結婚四年目の彼女だが夫と半年もの間セックスレスが続いているのだという。彼女は三十歳で、夫は四十二歳。年齢的にも早く子供が欲しいという気持ちはあるものの、肝心の行為がない。夫は仕事に疲れて帰宅後すぐにリビングで寝てしまったりして、そもそも共に床に就くこともほとんどないのだという。

私は自分からセックスしたい旨を伝えたことはあるのかと彼女に尋ねた。彼女はそんなことはとんでもないと言わんばかりに否定した。

「私は一度もセックスレスになったことないよ」

そう言うと彼女があからさまにムッとしたのが分かったが私は気にせず続けた。

「それは私が魅力的だからってわけじゃない。私は自分からセックスしたいって伝えてるだけ。女だって自分からセックスしたいって言ってもいいんだよ?」

私の言葉に彼女は驚いていた。

子供が欲しいと言うと、相手のプレッシャーになってしまうかもしれない。しかしセックスしたいと言われて嫌な気分になる男性は少ないはずだ。ましてや相手は自分の妻なのだから。

戸惑う彼女に私はこう指示した。

「今すぐ旦那さんにメールして。帰ったらセックスしようって言うの。それでこの半年間の悩みはすぐに解決するよ」

彼女は震える手で携帯を握った。いざ内容を打ち終えても、なかなか送信できずに葛藤しているようだった。焦れったくて私が携帯を取り上げようとすると、彼女はなんと泣き出してしまった。

「どうしてこんなことで悩まないといけないのよ……!」

その言葉に私も過去を思い出して悲しくなり、思わず彼女を抱きしめた。

セックスがないことが、こんなにも彼女を追い詰めているなんて、思いもよらなかった。確かに自分はもう女として見られてないのだろうかという想いは夫婦生活にも暗い影を落とす。

彼女の場合は特に子供を強く望んでいた。最近では実家に帰る度に両親からも、子供はまだかと発破をかけられていたようだ。彼女はそれがまるでセックスをしていないのかと問い詰められているような気分なのだと言う。

「自分に魅力がないなんて、思わないで」

私の言葉に彼女は覚悟を決めたように、メールを送信した。

次の週サークルで彼女に会うと、私の顔を見るなり真っ先に礼を言った。あの夜、帰るなり夫は彼女を抱いたというのだ。夫はやはり求められて喜んでいた。

交際してから七年、結婚して四年。初めて一緒にお風呂にも入ったのだと嬉しそうに報告してくれた。私は自分の助言が彼女の役に立ったことが凄く嬉しかった。同時に、女性にも性欲はある、その性欲を満たす為に自らパートナーに行為を要求することも何ら恥ずべきことではないのだと確信した。

ハギに至っては、私の要求に応えてくれない日もあった。それでも私はめげなかった。セックスをし続けている限り、良好な関係を築けていける気がした。

平生の私は鬼の形相で彼を怒鳴りつけるが、セックスの時だけは驚くほどに従順だった。それは私の性的嗜好が生粋のマゾヒストであるからだった。もはや彼が優位に立てるのはセックスの時だけだ。言葉の暴力で傷ついたハギの心を、私の献身的なセックスで癒した。

昼にどれほど険悪になろうとも、夜のセックスによって二人の仲は保たれた。