第2章 未来をつくるのは人の決算書
決算書に求められるもの
第1章で述べたように、現在の決算書にはその記載形式において人を資産としてみなし育てるものさしがありません。では、決算書に人の価値を記そうとするときに求められる条件とはどのようなものか、ここに挙げてみます。
1. 人の資産を勘定科目として扱うこと
2. 人を資産とする価値の客観的な単位があること
3. 価値が金額換算できること
4. 人のポジティブな面、ネガティブな面の両方を表現できること
5. 流動資産、固定資産、流動負債、固定負債として表現されること
6. 第二の貸借対照表となること
具体的にどのようなことを指すのか、ひとつずつ見ていきましょう。
1. 人の資産を勘定科目として扱うこと
「企業は人なり」、つまり企業は人で成り立ち、その成長いかんで企業の明日が決まることを意味します。日頃、人材教育で苦労をしている経営者にとってはとても実感がある言葉でしょう。
社外の利害関係者に知らせるものとして現在の貸借対照表と損益計算書がありますが、企業自らが人の成長度合いをはかり、社内の人材力を把握する資料がありません。過去の企業収益とそれを生み出した資産や負債内容を知ることはできますが、未来の原動力となる肝心の人材力を把握することができないのです。
そうした事態を防ぐためにはバランスシートに「人資産勘定科目」を盛り込むことが必要であり、現在の貸借対照表に新たな科目を設けなければなりません。また人を資産として捉えるとはいっても、そこにはプラスの面とマイナスの両面が存在します。両面を併せて考えることが重要ですし、人資産勘定科目はこれらを反映したものとしなければなりません。
2. 人を資産とする価値の客観的な単位があること
人を資産としてみなすとき、その価値をどのようにはかるのかという大きな問題が出てきます。
人は育った環境、身につけた知識、持って生まれた感性、その全てが異なります。知性があっても感情の制御がうまくいかず能力を発揮できない場合もあります。まさに人の能力は多様であり、誰ひとり同じではありません。そうした人を資産としてはかることはとても難しいことのように思えます。
また、企業は限られた利益を分配する目的で人を評価せざるを得ません。そのためにひとりひとりを相対的に評価することになります。業績、意欲、態度、能力などいくつかの項目にわたり本人の自己評価なども参考にしながら上司が考課し、その結果、人の力が相対的に評価されるのです。
しかし、人が人を評価する以上、曖昧な部分も生じてしまいます。評価する側の主観に左右されることがあるからです。人を資産として考えるときの難しさがここにあります。
決算書に人を評価するための項目がないのはこうしたことが原因のひとつかもしれません。相対評価は利益分配時における人の力をはかるものであるため、未来を切り開くための潜在性が封印される欠点があります。
相対評価に気を取られ社員全体の能力の底上げが疎(おろそ)かにされては企業の発展はなくなります。人を資産としてみなし育てようと考えるのであれば、労働分配のための相対評価というものさしはなじまないといえます。
社員ひとりひとりの能力をしっかりと引き出し、全社一丸となって成長していくためには、絶対評価をつくり上げる必要があるのではないでしょうか。
グローバリゼーションが進む中、私たちは世界のさまざまな国と交流していかなければなりません。優れた工業製品をつくっていれば、世界中の人が買ってくれるという時代ではありません。
優れた製品をつくるのは当然のことであり、それをいかにして売るか、つまりマーケティングが非常に重要な時代になってきました。マーケティングは、その国の文化や考え方、価値観に基づき多面的に展開しなければなりません。日本人的な考え方を他国に押しつけるようなやり方ではうまくいきません。