「魅力」という興味が人々を寄せ付けるのである。山にもそんな巨木は稀少なように、人間界でもそんな人間は数少ない。しかし数が少ないからと言って憧れで終わるにはもったいない。私はそんな人間を目指してきた。そして、あることに気付く。数が少ないから価値があり、優れた存在は数が少ないということに。

そしてそんな巨木のような大きな人間には、誰でもなれるということに。その方法は「そうなりたい」と思うこと。

経済的な余裕、時間の余裕、社交性の余裕。色々な余裕が人間を飾る。しかし、最も強く大きな人間は「心の余裕」がある人間である。外的要因に影響をされない、自分の内側から見た自身の心。その心を自由に創造することができればそんなに幸せな人生はない。

人が集まるそんな巨木は見た目の大きさだけで凄さを伝えているわけではない。人間も同様、その大きさの価値は「心」の大きさである。だから、誰でも自分次第でそんな巨木になれるのである。

「来季からは契約を結ばない」こんな言葉を聞くのは野球選手ならではかもしれない。事実上の戦力外通告である。心にぽっかりと穴が空くほどのショックを受ける。その穴を埋める作業は並大抵ではない。

そんな時、以前聞いた言葉が頭をよぎる。トレーニングコーチに言われた言葉。「野球選手は怪我をしてしまえば、ただの人」この言葉の本当の意味を知ることとなる。

「怪我をしたらただの人」。要は、「野球を取ったらただの人」だということ。文字通り次の日からは「ただの人」になるのである。「ただの人」になった瞬間に世間の対応も「ただの人」になった。世間の恐ろしさも冷たさも同時に知ることとなる。野球選手という武器を失い、何も持たない「ただの人」はその後、社会という恐ろしい世界の中で生き抜いていくことになる。

そんな世界ではこれまで向き合うことのなかったいろんな人間の本性と出会う。他人の心に土足で踏み入る人間。力加減もなく鋭利な言葉を突き刺してくる人間。自分のためなら他人が傷つこうがなんとも思わない人間。他人の足元を見て言葉巧みに騙そうとする人間。

そんな人間たちと出会うたびに自身の考え方の根底を見直した。自分を疑い、自信を失いかけたこともある。一人で家にこもり自問自答をする時も、行動する気力を失うほどへこむ時も、悔しくて涙を流すこともあった。

 

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