【前回の記事を読む】「私を描いて!」——裸のまま、叫ぶように懇願した。結婚をしないと決めている彼に、私の美しさを覚えておいてほしくて…

神矢はもう、すっかり画家になっていた。キャンバスに木炭でデッサンを描き始めたようだった。いつもと違う彼の目が、私を射るように見ていた。

長いこと、私は言われたポーズでジッとしていた。部屋は冷房がかかっていて、私は少し体が冷えてきた。

「ちょっと寒いわ」

「あぁ、ごめん」と言って、神矢はリモコンを押し、温度を上げてくれた。

「デッサンが大事なんだ。もう少し我慢してくれ」

「えぇ」

神矢は没頭してキャンバスにデッサンを描き続けていた。壁の時計を見ると、四時になろうとしていた。

「よし。今日はここまでにしておこう。疲れたろう」

「大丈夫よ」

「僕は物事を中途半端にするのが嫌いでね。君を描くと決めたからには、ちゃんと完成させる。だから、また日曜日に来てくれ。毎週じゃなくていいから。来れる時は事前に電話してくれ。僕も予定があるから。モデル代も払うよ」

「そんなのいいわ。私が頼んだんですもの」

「いや。もう、僕の仕事になった。君は僕のモデルだ。……今日のインスピレーションやイメージを壊したくないから、しばらく『ココ』で会わないよ」