【前回の記事を読む】一緒に飲んだ帰りだった…「小便に糖が出てもどうってことない。」と言っていたのに、「寒い寒い、胸が苦しい」と繰り返し…

あなどるな糖尿病

「ふーん。そうなのか。尿に糖が出るだけではないのか」大苦来要がうなずいた。

「私は足がしびれるけれど、それも関係あるのかな」と田部杉太が言った。

「足のしびれも糖尿病の症状ですね。進行すると足の感覚がなくなり、潰瘍ができたり血管がつまったりして炭になってしまう事もあるんだよ。炭化と言うけれど炭みたいになってしまう」

「ひゃー。足がそんなになってしまう。大変だ。歩けなくなる」杉太が驚いた顔をした。

「歩けなくなっても困るし、目が見えなくなっても困る。腎臓が働かなくなっても困る。だから糖尿病を馬鹿にしてはいけないよ」

「でも糖尿病は治らない病気でしょう?」大苦来要が尋ねた。

「上手に付き合っていけばいいのですよ。治療を始めたから一生続くということもないのですよ。身体の状態によって薬もやめることもできます。ただ自分勝手に薬を飲んだりやめたりするのが一番いけない」

「そうかー。気を付けないといけない」田部杉太が納得顔で頷いた。

読経の声が更に大きくなったように聞こえている。読経に誘われるかのように原出太郎の幽霊がふらふらと出て来た。「なんだここは? どこなんだ。真っ暗だぞ。あ、あそこに光が見える。行ってみよう」

そこは葬儀場だった。

「なんだ葬式か。一体誰の葬式なんだ。えー何々、故原出太郎? 原出太郎? どこかで聞いた事のある名前だ。えー。なんだ俺の名前だ。誰だ、こんな悪ふざけをするのは? 俺はここにいるぞ」

「騒がしい。神聖な葬儀の場で騒ぐのは誰だ?」日内変動禅師(にちないへんどうぜんじ)が出て来ました。

「誰だって? 俺が原出太郎だ。ここにいるのに何故俺の葬式なんてやるんだ。これって嫌がらせか?」

「ばっかもん。この由緒ある糖尿醍寺を何と心得る。わしは当寺の住職の日内変動禅師じゃ。原出太郎、お前は心筋梗塞を起こして亡くなりここへ来たのだ」

「えー。それはないよ。俺は確か志望寛と酒を飲んで別れてから急に胸が苦しくなって。気が付いたらここにいただけだ」

「だからその時に亡くなったのだ」

「ないない。そんなことない。だって俺は現実にここにいる」太郎は必死に言い返した。

「だからー、ここは地獄門前町だ」

「えー地獄! やだやだ! 俺は絶対に行かんぞ、浮遊霊になってでも彷徨ってやる」

「そんな事言わずに早く成仏せい。わしも忙しいし最近は早く寝たいのじゃ」